毎月1日発行 発行責任者 守一雄
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そうは言っても、所詮は書斎派の私は時々早朝や深夜にも出かけたりする程度で、プロの写真家や研究者のようなことは体力的に無理である。そこで、本を読んで疑似体験を楽しむことになる。
長野に職を得てしばらくは簡単に自然の中に行けるので、と言ってもドライブするだけだが、よく山に行ったものだ。カモシカにも出会った。おそらく出会った野生動物の中で一番大きな動物だろうと思う。(残念ながら、熊には出会ったことがない。)
というわけで手に取ってみたら、なんと著者は東京農工大学の研究者だった。農学部附属の施設の特任准教授とのことで、私がいた工学部とは別キャンパスだし、そもそもこの施設自体が2022年にできたようなので、私がいた頃には施設自体がなかった。
主な観察のフィールドは天狗温泉浅間山荘ということで、長野の自宅からは車で一時間くらいしか離れていない。後半に出てくる高山地帯のカモシカ平だって直線距離で30kmくらいだ。(実際には、山をぐるっと迂回していかないとダメなので3時間くらいかかりそう。)
で、この本で何が面白いかというと、著者のいかにも今時の若者っぽい語り口と、あえて導入に全体の三分の一を充てて基本的な知識を前もって説明してくれている構成の巧みさだと思う。牛や馬の仲間は草食でヒヅメを持つ有蹄類に属し、カモシカも牛の仲間なので有蹄類、ヒヅメの割れている偶蹄目である。草食でヒヅメのある有蹄類は総じて大きな体を持つ。それは草を消化するための特別な消化器官が必要なためだったり、ある程度大きいことでエネルギー効率を高めていたりする。さらに、同じ草食でも稲のような繊維質が多く、消化がより難しい草を食べる動物と木の葉っぱのように比較的柔らかい葉を食べる動物がいて、前者は群れを作りやすいが、後者は縄張りを作り単独で行動しやすいことなどがまず導入部で説明されている。周囲にどんな草が生えているかが群れを作るかどうかという社会行動に影響するのだ。
と、こうした導入の後にいよいよカモシカの話になる。カモシカは縄張りを持つ後者のタイプであるが、その行動が本当に環境によって影響を受けるのかを著者は研究しているのである。はたして、比較的標高の低い浅間山荘近辺のカモシカたちと、高山地帯のカモシカたちの社会はどう違っているのであろうか。著者の冒険は現在進行形で続くのである。(守 一雄)