毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]
(kaz-mori[at-mark]cc.tuat.ac.jp)
http://www.avis.ne.jp/~uriuri/kaz/dohc/dohchp-j.html
消費税を10%に上げたとしても社会福祉、特に高齢者の医療費の増大で、溜まりに溜まった国債費の償還には全然足りないのだそうです。いっそのこと「高齢者には死んでもらったらいいんじゃないか」と恐ろしいことを考えていたら、ホントにそんな法案が可決したらどうなるかという仮想の日本社会を描いた小説がありました。仕事に定年があるように、人生にも定年制をというわけです。
「死ぬ年齢を国に決められてしまう」そんなことが歓迎されるはずがない、と思うかもしれませんが、高齢者にとっては自分の死期が決まることは何かと好都合なのです。老後が心配なのは、いつ死ぬかではなく、死ぬ前に自力での生活ができなくなったり、そのことで家族に迷惑がかかったりすることが予想されるからです。そして、そうなったとき、今度はいつ死ねるのかがわからないから困るのです。だから、そのために保険に入ったり貯金をしたりして、貯金の残額を眺めつつ、つましく暮らさざるをえないのです。もし、いつ死ぬかがわかるのなら、死期から逆算しての生活設計ができます。私は61歳ですから、あと8年半分の生活費を確保できれば、残りは自由に使えることになり、今よりかなり贅沢な暮らしができます。つましく暮らしていても七十歳で死んでしまうかもしれないんですから、割り切って楽しく暮らせる方が幸せな生き方ということです。しかも、そう考えて高齢者の消費が増えれば、たちまち景気も上向くでしょう。私はこの法案に賛成です。(守 一雄)
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(c)幻冬舎 |
冒頭に『週刊新報』2020年2月25日号の記事としてこの法案の骨子が紹介される。
| 七十歳死亡法案が可決された。 これにより日本国籍を有する者は誰しも七十歳の誕生日から30日以内に死ななければならなくなった。政府は安楽死の方法を数種類用意する方針で、対象者がその中から自由に選べるように配慮するという。 政府の試算によれば、この法律が施行されれば、高齢化による国家財政の行き詰まりがたちまち解消される。施行初年度の死亡数はすでに七十歳を超えている者を含め約二千二百万人で、次年度以降からは毎年百五十万人前後で推移する。 当然予想されたことだが、同法は世界中から非難を浴びている。しかし、少子化に悩むイタリアや韓国などは静観のかまえである。一方、中国は長年に亘るひとりっ子政策の影響で、少子高齢化のスピードは速く、老齢人口が二割を超えるのは時間の問題だ。それだけに、日本における当法律の行く末を、中国政府が注視しているという声も聞かれる。 果たして、長寿は人類に幸福をもたらしたであろうか。 本来ならば喜ばしいはずの長寿が、国の財政を圧迫する原因となっただけでなく、介護する家族の人生を台無しにするような側面があることは今や誰も否めない。 今後も世界中の議論を呼ぶところだ。施行は二年後の四月一日である。 |
小説では義母(84歳)の介護に追われる55歳の東洋子と、その夫(58歳)、実家に寄り付かない娘(30歳)、そして有名大学を出ながら、ひきこもりの息子(29歳)の5人家族それぞれの視点からこの法案可決後の様子が描かれる。この小説の面白さは「七十歳死亡法案が可決された」という設定にある。いろいろな年齢や状況の主人公でもそれぞれ面白い話が書けそうだ。自分が主人公だったら、と考えながら読むのも面白いだろう。(守 一雄)