DOHC1806
第31巻第9号                         2018/6/1
XXXI-XXXI-XXXI-XXXI-XXXI-XXXI-XXXI-XXXI-XXXI-XXXI-XXXI-XXXI-XXXI

DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

XXXI-XXXI-XXXI-XXXI-XXXI-XXXI-XXXI-XXXI-XXXI-XXXI-XXXI-XXXI-XXXI

毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]
(kazuo.mori[at-sign]t.matsu.ac.jp)
http://www.avis.ne.jp/~uriuri/kaz/dohc/dohchp-j.html

 東京農工大学での教職課程の授業を最後の2年間は英語でやってみました。英語で話をしても、日本語のパワーポイントスライドを用意しておけば、字幕付きの洋画を見るようなもんですから、学生はなんとか理解できていたようでした。それに、ネイティブの外国人が話をするのと違って、私は学生がどんな単語や表現を知っているかを知っていますので、難しい単語や表現の際には適宜日本語を交えてやれば、わかるわけです。数年前に、SARMACという国際学会で日本人の院生が発表した際に、フロアから質問があったのですが、発表者は質問の内容が理解できませんでした。そこで、私がその質問を「日本人が理解しやすい表現」に言い換えたら、すぐに理解してもらえました。海外の同僚研究者たちからは「Kazが英語を英語に翻訳した」と感心されたりもしました。

 四月から始まった松本大学教育学部の教育心理学の授業も、そんなわけで英語でやることにしました。この授業は2年生が対象の必修科目ですが、1年生の時から「来年の私の授業は英語でやります」と宣言していましたし、松本大学教育学部は小学校教員養成を中心にしているものの、小学校からの英語教育が始まったことを考えて、英語教育にも力を入れているので、必修の授業の一つくらいは英語でやることも英語学習への意欲づけになるだろうと考えました。特に、高校までは「英語は学ぶ対象」であって、「英語で何かを学ぶ」という経験がない学生に、「英語で教育心理学を学ぶ」ことは英語を学ぶことに対する意識を変えることにも役立つだろうと考えたのでした。

 最初の2回ほどは物珍しさもあって学生は何も言わなかったのですが、3週目くらいに数人の学生が「英語でなく日本語でやってほしい」と言いだしました。それでも、「君らは英語が苦手と思っているかもしれないが、フランス語や中国語などと比べてごらん。フランス語の単語なんて、10個も言えないだろう。それに比べて、英語は千語くらいの知識があるはずだ。使わないからできないような気がするだけで、実は、もう相当の知識があるんだよ」などと言って、英語授業を続けてきました。

 先週、大学側から実施するよう義務付けられている「学生中間アンケート」を実施したところ、学生からの「徹底的に否定的評価」に愕然としました。大学の教員を始めて37年目ですが、今まで学生からここまで酷い評価をされたことはありませんでした。学生たちは、当初の要望が受け入れられなかった後は、不満を抱えたまま「授業を全面否定」することにしていたのでした。改めて考えてみると、学生との信頼関係をしっかり築けないままに無理な要求を押し通してしまっていたようです。

 というわけで、授業の計画を全面的に変更して、日本語でやることにしました。まずは、来週の授業で学生たちに謝罪し、新しい授業計画を提示することにしました。学生との関係がここまでこじれてしまうと、もう挽回は難しいかもしれませんが、誠意をもって頑張ろうと思います。

 今月号で紹介する本は、今年の一月から紹介の機会を考えていたのですが、皮肉なタイミングになってしまいました。「英語で教える教育心理学」の授業を終えた8月号あたりに意気揚々と紹介し、「私も『英語で学ぶ教育心理学』の教科書を書きたいものだ」という文で終えるつもりだったのですが、とても実現できそうにありません。(守 一雄)


(c)有斐閣
 

【これは絶対面白い】

大坪庸介+アダム・スミス
『英語で学ぶ社会心理学』

有斐閣(¥2,400+税)

 著者の大坪先生も神戸大学で社会心理学を英語で教えているという。「はしがき」で、英語で教えても「日本語で講義しているときと比べて特に理解度が下がっていないようだ」とも述べている。大坪先生は、こんな本を書くまでして、しっかり準備して授業をしているからなのかもしれないが、内容を厳選し、学生を上手く意識づけできれば、日本人学生の英語力はそんなに低くないはずなのだ。他の大学でも、この本を使って「英語で教える社会心理学」の授業が増えてほしいと思う。そして、社会心理学だけでなく、他の心理学分野でも「英語で学ぶための教科書」が増えてくることを強く願う。(守 一雄)

DOHCメニュー