dohc2412

第38巻第3号                2024/12/1
XXXVIII-XXXVIII-XXXVIII-XXXVIII-XXXVIII-XXXVIII-XXXVIII-XXXVIII-XXXVIII-XXXVIII

DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

XXXVIII-XXXVIII-XXXVIII-XXXVIII-XXXVIII-XXXVIII-XXXVIII-XXXVIII-XXXVIII-XXXVIII

毎月1日発行 発行責任者 守一雄
(kaz-mori@cc.tuat.ac.jp)
http://www.avis.ne.jp/~uriuri/kaz/dohc/dohchp-j.html


 移民問題やイスラム教関係の本やネット情報を見ているとこの本がよく推奨されています。「ヨーロッパは移民政策によって自死してしまった」ということを述べた本です。一方でこの著者は「極右のジャーナリスト」であり、「イスラムフォビア煽動家」であるともされています。全部で500ページを超える分厚い本なので、なかなか手を出せずにいましたが、自分で読んで評価してみることにしました。

 結論から言うと、これはオススメです。遅ればせながら、ここで紹介することにしました。本書を読んで、いくつか誤解していたことが修正されました。第一に「移民してきた人はいずれ同化する」と漠然と考えていましたが、それは誤解でした。古くは小泉八雲とかのように日本文化に魅了された結果、日本人になってしまった人や、ラモス瑠偉のように日本人以上に熱く大和魂を体現するようなサッカー選手だけを移民の例と考えていましたが、これらはむしろ例外で移民は自分たちの元々の生き方や文化を捨てるはずがないのです。一方で、移民した日系ブラジル人が今も現地で日本文化を守り続けていることを好ましく思っていました。

 次に、「移民」と「出稼ぎ外国人」を同じように考える誤解もしていました。一時的に出稼ぎに来ているだけで、いずれは母国に帰るものだと思っていました。このことで思い出すのは、私自身のカナダ留学時の経験です。最初の年は大学の寮に入り、イラン人、イラク人などと同じアパートをシェアするものでしたが、彼らは私と同じ留学生であっても国に帰るつもりはないことを知り驚きました。私のように「帰るつもりで来ている」という方が彼らにとっては不思議だったようでした。

 もう一つ誤解が解けたことは、移民を排除する政治的立場を「極右」と呼ぶのは、移民推進派による蔑称だということに気づいたことでした。マスメディア自体がリベラルに偏っているために、アメリカのトランプ次期大統領やイタリアのメローニ首相、フランスのルペン国民連合党首は「極右」とされます。私にとっては「極右」というと大音量で軍歌を流しながら走る街宣カーのようなイメージを持ってしまうのですが、移民反対が「極右」なのなら、つい最近までの自民党も「極右」だったことになります。この本を読んで「移民反対」と思うようになった私も「極右」ということです。

(c)東洋経済新報社
 
 原書は2017年6月に出版され、翌2018年12月にはこの訳書が公刊されました。冒頭には中野剛志氏による9ページの簡潔な解説があり、本書は「日本の自死」と読み換えられる事態になっていることが指摘されています。大部ですが、どの章も読み応えがあり、日本の現状と重ね合わせて考えさせられます。移民推進派のヨーロッパの政治家たちも、私のような誤解をしていたこともわかりました。彼らも「移民はいずれ国に帰るか同化する」と考えていたがそうではなかったのです。でも、移民のために開けた扉はもう閉めることができなくなってしまいました。ちょっと驚きだったのは、ヨーロッパが「中東やアフリカからの移民を受け入れざるを得ない背景」に、かつてのヨーロッパ帝国主義時代にこれらの地域で行った悪行に対する罪悪感があるという指摘でした。

 最後に改めて確認できたことは、移民問題の根底にあるのはイスラム教だということでした。原書の副題の最後にIslamとあるだけですが、「西洋の自死」は「移民」だけのせいではなく、「イスラム教移民」であることが真の原因だと思います。だとすれば、おそらくアメリカはまだ大丈夫でしょう。では、日本はどうでしょうか?(守 一雄)

【これは絶対面白い】

A.マレー『西洋の自死』

東洋経済新報社 (¥3,080) 

DOHCメニュー