dohc2509

第38巻第12号                2025/9/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行 発行責任者 守一雄
(kaz-mori@cc.tuat.ac.jp)
http://www.avis.ne.jp/~uriuri/kaz/dohc/dohchp-j.html


 例年になく暑い夏でした。長野市は7月20日から8月5日までなんと猛暑日が17日間連続しました。前後の9日を加えると今年の7月8月は62日のうち26日が猛暑日でした。(今日9月1日も37度の予想です。)こんな猛暑の夏にもかかわらず、これもまた例年になく生産性の高い夏でした。英文共著論文を5件書きました。うち2件は内容もなかなか良いものになったので、WoSにインデックスされているジャーナルに投稿、残りの3件は「それなりのジャーナル」に公刊しました。これらの公刊論文を実績にして、研究分担者として3件の科研費申請をしました。(守 一雄)

【これは絶対面白い】

松里公孝『ウクライナ動乱』

ちくま新書 (¥1,430)

(c)筑摩書房
 
 ロシアの伝統工芸品にマトリョーシカという人形がある。人形は入れ子構造になっていて、一番大きい人形を開けると、ひとまわり小さい別の人形が中に入っていて、それを開けるとさらに小さな人形が…とどんどん小さい人形が出てくる。

 ロシアという国もマトリョーシカ人形のようだ。ロシアの正式名称はロシア連邦であり、80を超える「連邦構成主体」から成り立っている。「連邦構成主体」というのは基本的に「共和国」であり、つまりロシアという国の中にたくさんの小さな国が隠れているのである。実は、ロシアはソビエト社会主義共和国連邦(=ソ連)というさらに大きな国の一部だった。1991年のソ連崩壊後は、ロシアだけでなく、バルト三国やウクライナ、ベラルーシなど15の国が外に出てきた。ソ連という「マトリョーシカ」は何層にも国が入れ子になっているだけでなく、人形とは違って、1つの層にたくさんの構成体が入っているのだ。

 ソ連という大きなマトリョーシカ人形から飛び出したウクライナも別のマトリョーシカ人形だった。1つの国ではなく、ドネツク共和国やルガンスク共和国などを内部に抱えていたからだ。クリミヤ共和国に至っては、元々はムスリムのタタール人たちが住んでいた土地だった。

 島国に住み、日本中どこへ行っても人々が同じような暮らしをしている日本に住んでいると「国」というものに対する概念が国によって違うことに気づかない。「ロシアが休戦の条件にクリミヤ半島やドンバス地域の割譲を迫っている」と聞くと、まるで他国が北海道の割譲を迫っているかのように解釈してしまいがちだ。

 しかし、実情はそうではない。これらの地域に住んでいる「ウクライナ人」は元々ロシア人なのである。では、なぜロシア人がウクライナの一部に住んでいるのかというと、ソ連解体後のロシア側の思惑でこれらの地域をあえてウクライナ側に残したからであった。こうすることで、ウクライナが国として一体化することを妨げ、ウクライナの政権にも一定の影響力を保持することができる。ウクライナに住むロシア人たちにも、「ロシア人形」の中に入るよりも、「ウクライナ人形」の中にいる方が有利なことも多かったのだ。現にソ連崩壊後もロシアはウクライナを自分たちの属国として上手くコントロールしてきたのである。

 それが上手くいかなくなったのは、ウクライナ人たちの自立意識が高まり、西側の体制に加わろうとする人々の方が力を持つようになったからだ。そして、それに抵抗するロシア系の人々を武力で弾圧してきた。と、あえて単純化して話をまとめたが、松里氏はこの本でウクライナ戦争の背後にある複雑な歴史をソ連の崩壊から詳細に説明している。丁寧すぎて新書2冊分以上の厚さになってしまった。(守 一雄)

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