糸井重里・池谷裕二
『海馬』

朝日出版社

学生 あれ、先生、その本の
「海馬」っていうのは、この間
授業で話していたあの海馬の
ことですか?

教授  そう、脳の中で新しく
何かを記憶することに最も
深く関わっているとされるあ
の海馬のことだ。

学生  でも、なんか装丁はか
なりクダけた感じの本ですね。
著者の糸井って人もタレント
でしょ?

教授  うーん、一昔前にはコ
ピーライターとしてかなり有名
だったんだが、君たちの世代
じゃあまり知られてないかなあ。
  確かに装丁は学術書って感
じじゃない。しかし、中身はマ
ジメな脳の働きの話なんだ。
「海馬」なんて、大脳生理学の
学術書にしか出てこないような
専門用語だったんだが、こうい
う一般書のタイトルに使われる
ようになるなんてちょっと驚きだ
な。

  
学生  でも、最近はテレビの科
学エンターティメント系の番組な
んかでよく登場してますよ。

教授  じゃ、「海馬」って聞いて
「海豚(イルカ)」や「河馬(カバ)」
の仲間かと思ったりはしないの
かな。

学生  ええ、海馬は脳の一部の
器官に付けられた名前だって結
構知られてると思いますよ。でも、
脳の一部がなんで「海馬」なん
でしょうね?

教授  「海馬」はもともとは馬の
上半身に魚の下半身がついた
伝説の海獣のことだったんだが、
タツノオトシゴのことも海馬という
ようになり、そのタツノオトシゴに
形が似ているので脳の一器官が
「海馬」と命名されたんだ。
 脳の中の器官はどんな働きを
しているのかわからないので、ま
ずは形から命名することになる。
その海馬の機能について、第一
線で活躍している若手研究者の
池谷裕二さんと言葉使いの達人
の糸井重里さんが対談している
のがこの本なんだ。
  池谷さんと言えば、君たちにも
『記憶力を強くする』(講談社ブル
ーバックス)っていうとてもおもし
ろい本を紹介しただろう?  
     

学生
 あ、あの本の池谷先生で
すか。それならこの本もきっとお
もしろいですね。

教授  まったく異質な糸井氏との
対談で前の本とは違った面が引
き出されている。前の本が勉強の
本だとすれば、今度の本は生き
方のヒントを与えてくれるような本
だな。各章の最後に重要点がまと
めてあるし、本文が対話体なので
読みやすいのもうれしい。

学生  えへ、この書評と同じですね。 

(守 一雄)