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第39巻第2号                2025/11/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行 発行責任者 守一雄
(kaz-mori@cc.tuat.ac.jp)
http://www.avis.ne.jp/~uriuri/kaz/dohc/dohchp-j.html


 先月号ではちょっとふざけてこの本のタイトルが「ノンアルビールのZEROを飲んで死ね」という意味だなんてことを書きました。しかし、本当のところは「財産を残さずに死ね」ということです。退職後は「いかに死ぬか」について考えてきた私にとって、この本は人生について別の側面から深く考えさせてくれる素晴らしい本でした。今月号では、改めて本書を紹介したいと思います。(守 一雄)

(c)ダイヤモンド社
 

【これは絶対面白い】

B. パーキンス 『DIE WITH ZERO』

ダイヤモンド社 (¥1,870)

 著者のパーキンス氏の「財産を残さずに死ね」という主張はシンプルで納得がいくものだった。金融業で泡銭を稼いで百億円を超える資産を持っている著者がこんなことを言っても腹立たしい気分になりそうだったが、意外に読後感も爽やかだった。

 実を言うと、残念ながら74歳の私には、この本で推奨されていることのほとんどがもう手遅れであった。「今しかできないことに、惜しみなく金を使え」と言われても、もうやりたいことが見つからない。昨年から息子を誘ってJリーグ観戦にも出かけるようになったが、なにしろ疲れる。DAZNで見る方がずっと楽である。もっと若い頃、20代や30代の頃にこの本に出会いたかった。

 それでも、自分の若い頃を思い出してみると、私は著者の勧めるような生き方を選んでいたことにも気づいた。例えば「ルール2の章」で、著者は20代前半の頃、ルームメイトが3ヶ月仕事を休み、しかも高利貸しから借金までしてヨーロッパにバックパック旅行に行ったことを紹介し、この友人が「金では買えない、かけがえのない体験を得た」と称賛し、そうしなかった自分を後悔している。なんと、私も大学生の頃に、借金はしなかったものの、アルバイトなどで資金を捻出して、8ヶ月ほどロンドンに滞在し、バックパックを担いでヨーロッパを巡る旅行をするという貴重な経験をしていた。なんのことはない、私は著者に羨ましがられる側にいたのだ。

 著者のパーキンス氏は「人生の最後に残るのは思い出だ」と主張する。そして、若い頃の思い出は人生で何度も思い出し、株の配当のように、「記憶の配当」として人生を通して喜びを与えてくれるのだという。確かに今思うと、私の20歳での経験はその後の人生に大きく影響し続けた。「記憶の配当」だけでなく、卒論のネタも、学位取得のための実験研究も、その後の研究者としての生き方の選択も、この経験なしにはあり得なかった。この冒険旅行を計画した当時18歳の私を改めて褒めてやりたいと思う。

 もっとも、逆の思い出もある。学生結婚をしてカナダの大学でプリドク(ポスドクではない。学位を取る前の薄給研究員)をしていたときに、東ドイツでの国際学会に参加に後に、スイスに観光旅行に行った。確かスイス鉄道に乗り放題のパスを買って、スイス国内を移動していたのだったが、ユングフラウの登山鉄道はこのパスでは乗れなかった。あまりに高額だったので諦めたのだったが、これは今も心残りである。

 というわけで、著者の主張には全面的に賛同できるし、自身の若い頃の決断が肯定的に評価できることが嬉しい。そこで、この本を妻にも勧めて、妻の読後に二人の若い頃に思い出のあれこれについて語り合った。そして、極めて残念なことに気づいた。それは私のエピソード記憶力の極度の乏しさである。同じ経験をしていながら、妻が覚えていることの10のうち、わずか1程度しか私には思い出せないのだ。以前から、自身のエピソード記憶が希薄であることに気づいてはいたが、ここまで貧弱であると、せっかくの「記憶の配当」のほとんどが受け取れていなかったことになる。(守 一雄)

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