第39巻第12号                2026/9/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行 発行責任者 守一雄
(kaz-mori@cc.tuat.ac.jp)
https://kaz-mori.jp/dohc/

 今年の夏は涼しくて、昔からの「信州の夏」という感じで過ごせました。今月はアメリカの女性人気ブロガーが書いた『射精責任』を紹介します。帯に「全米騒然」とあるように、アメリカでは話題沸騰だったとのことですが、私のアンテナに引っかかるのには3年もかかってしまいました。(守 一雄)


(c) 太田出版

【これは絶対面白い】

G.ブレア 『射精責任』 太田出版 (¥2,200)

 派手な真っ赤な表紙に本文も赤と黒の2色刷りで、字も大きく、一気に読み終えた。「はじめに」の中にも赤字のゴチック体で「望まない妊娠のすべての原因が男性にある(p.8)」「望まない妊娠は、男性が無責任に射精をした場合にのみ起きるのです (p.9)」とある。結局、これがこの本の主張である。「男は責任を持って射精しろ」ということだ。

 最初は何を今更当たり前のことを言うのかと思って読み始めたのだが、この主張の根拠となる全部で28の提言を読んでいくと、本書の意義がわかる。アメリカでは妊娠中絶をめぐって、中絶を認めない「プロライフ派」と容認する「プロチョイス派」が対立しており、これが共和党と民主党の支持層とも重なって、国家レベルでの重要な争点となっている。女性の生き方についてのブロガーで多くのフォロワーを持つ人気インフルエンサーだったブレアさんはまず2018年に63件に及ぶ連続のツイートで本書の元となる主張を述べた。中絶の是非についての議論を妊娠後に始めるのではなく、まずその大元となる男性の無責任な射精を問題視するべきだというのである。妊娠がわかってから中絶するかどうかを論じるのではなく、望まない妊娠そのものを無くせばいいのである。「プロライフ派」と「プロチョイス派」の対立もない。

 責任ある射精をしろという主張の根拠として挙げられた「精子は危険である」という提言24から、私は2018年に読んだ武村政春氏の『生物はウイルスが進化させた』を思い出した(DOHC 2018年2月号紹介)。武村氏によれば「ウイルスは自身では自己複製ができないが、他の複製機関を利用して自己複製をする生物の一種である」という。これは花粉や精子などと同様である。つまり、精子はウイルスに準えることができるということだ。となれば、精子を他人の体内に放出することはウイルスを放出することと同様に危険であることがわかる。膣内に入った精子は、卵子を求めて子宮から卵管を目指す。やがて卵管にたどり着いた精子のうちの一つが卵子に入り込み受精が起こる。受精した卵子は細胞分裂しながら子宮内膜に潜り込み着床して妊娠が成立する。こうしたプロセスは「生命誕生の美しい物語」として語られるが、これは「異物が子宮に寄生すること」とも考えられる。だから、どんどん勝手に侵入して寄生を始めてしまうような危険なものを無責任に他人の体内に放出してはいけないのだ。妊娠を望まない場合には、精子は危険なウイルス同様なものなのである。

 巻末にある齋藤圭介氏による「解説」も本書の背景となったアメリカの妊娠中絶をめぐる歴史と現状を簡潔にまとめていて、本書の意義を確認するのに役立った。齋藤氏はさらに、編者として『日本の「射精責任」論』という本を2025年に出版している。この編書には沼崎一郎氏の1997年公刊の論考「〈孕ませる性〉の自己責任」が収録されていて、ブレアさんと同様の主張が日本では四半世紀も前になされていたことがわかる。蛇足ながら、本書各章の冒頭に赤黒の大きな活字で示している提言が原書ではどうなっているのだろうと思って調べてみたら、このスタイルは原書そのままのものだった。(守 一雄)

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